ユニバーサルデザイン マネキン


衣装デザインにおける人体模型の活用について
(ダイジェスト)

──「ユニバーサルデザインマネキン」
の製作とその利用に関する検討──

by P〜j  
沖縄そば



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衣装デザインにおける人体模型の活用について (ダイジェスト)

──「ユニバーサルデザインマネキン」の製作と
その利用に関する検討──



1 はじめに
 一般的衣類の形状は、ごくごくおおまかにいって標準化された青年男子・女子の体型に合わせて作られたもののサイズバリエーションに、各種装飾的機能的加 工や色・柄等の工夫が施されたものであるといる。
 しかしながら、実使用者個々人の体型が、標準化された青年男子・女子の体型と比例関係にないことは明らかであり、実際には標準サイズからの比例的拡大縮 小に留まらず、縦または横方向への拡大縮小、および局地的拡大縮小で対応させることとなる。いわゆる、子供服やビッグサイズ、高齢者向けなどといった区分 もその現れの例といえるだろう。高齢者については、消費者としての実情とは別に消費者内の位置づけとして軽んじられていた向きがあり、高齢者の体型に関す るデータ収集がすすんできたのは近年のことのようである(※)。和服と異なり、使用者を選ぶ洋装の基本設計からいって、高齢者用等このような種々の体型バ リエーションに対応しようという方向は、衣類に対する快適さへの欲求を満たすための方向としては、ごく自然な流れといえる。消費者=衣類利用者を細分化し てとらえることは、衣類の提供者(製造業者)にとっては、大量生産によるコスト低下と相反するとして敬遠するか、ニッチな商売として歓迎するかの二者択一 を迫られる問題ということになるだろうが、いずれにしても消費者のマスがある程度の規模あることや、各種理由により付加価値を付けることが可能な製品群で あるため、細分化そのものが中心的な問題となることはないだろう。
 ところが、ここに述べてきた細分化の程度では対応が困難な事情も存在する。
 それは即ち、性別や年齢、ないし、横方向へのバリエーションの程度としての括りが難しい場合であり、究極的には使用者の体型区分でなく使用者個人の個別 性の問題へと帰結するものである。その実例としては、身体障害者をあげることが出来よう。
 身体障害者の場合、その個々人の特徴により、以下のような事情が含まれる場合がある。体型については、以下の二点があげられ、
標準化された青年男女の体型からの各部位毎のふれ幅が大きい
体型がシンメトリックであるとは限らない
着用する衣類の機能に関連するものとしては、
・四肢等に麻痺がある場合、通常の衣類の構造では着用時及び着脱に支障がある場合がある
・排尿・排便時の衣類の操作が一般的衣類の構造では支障がある場合がある
・温度調節のための開閉部位もまた、一般的衣類と同様でいいとは限らない
・着脱操作をするのが着用する本人であるとは限らない
といったことがあげられる。
 また、車椅子利用者など、日中に座位で過ごす時間が長いケースの場合、着心地面で通常の衣類への配慮とは別のものが求められる。継ぎ目の位置や、シワが よっても問題ない部分とそうでない部分、伸縮性が求められる部分とそうでない部分、また各種事情による開閉の必要な部分の特殊性等である。衣類そのもの、 及びその衣類を着用した自分を「見せる・見せたい」として考えた場合の外面的デザイン性についても、別観点の配慮が求められるだろう。しかしながら、そこ で障害者がとれる対応は非常に限られたものとなり、結果としての実態は大きく機能面にかたよっている。常に、いわゆる「トレーナーとジャージ」スタイルを 余儀なくされている場合が少なくないというのがそれである。ここには、当事者が必要とする機能だけでなく、介助者の都合といった問題も関係している。近年 こそ、障害の内容を考慮した各種機能重視のデザインが考案され、製品も市販されるようになっているが、当然ながら、そのバリエーションは通常の衣類に及ぶ べくもなく、色や柄、素地等の選択の幅は非常に限られたものとなっている。端的に表現するならば、「障害者がおしゃれをしてなにが悪い」と叫んだところ で、それはかなり困難な問題だということである。
 こういった事情に対応するための方法としては、体へのフィット感を全く考慮する必要のない設計がされた衣類を選ぶか、あるいはオーダーメイド、セミオー ダーメイドの衣類を発注するということになる。前者の場合、和服やサリーのような構造を持つ衣類があげられ既存のものでの対応がある程度可能なわけだが、 後者については多くの困難がつきまとうものと思われる。
 ここでは、後者についてのその困難さを吟味し、問題解決の一助として人体模型の活用について検討した結果を報告する。具体的には、いわば「ユニバーサル デザインマネキン」作成の可能性についての検討と、試作品を作成した結果の報告である。
 なお、ここで求めているものは実用品であるため、本報告は「ユニバーサルデザインマネキン」を実使用に対応させるための製品化を視野に入れたものであ る。

2 背景

 四肢に麻痺があり、車椅子を常用している障害者に対してのオーダーメイド衣類製作の例として、櫻井(○○○○)(※)の報告がある。これは、依頼者の 「私もジーンズを履いてみたい」という要望に応えようとした実践の報告である。
 そもそもジーンズに使用されるデニム地は、多くの身体的障害をもつ人々が有効利用している「ジャージ」の生地とはその柔軟性において対極にあるものとい えるが、依頼者にとってのジーンズは「おしゃれ」の代名詞であり、この意味からもジャージの対極にあるものである。櫻井の報告からは、この事情を前にして の多くの困難点があったことが読みとれるが、それをもとに、身体障害者用衣類の作成について、特にジーンズ作成に限らない困難点を抽出するとすれば、以下 のものをあげることができよう。
・採寸作業は依頼者に肉体的負担をかけ、場合によってはメンタルな面での苦痛を伴わせる可能性がある。
・衣類製作のノウハウとして一般化された採寸方法を、そのまま依頼品の形状決定に反映できるとは限らない。つまり、既存の衣類の一次構造、即ち型紙の適用 が困難である。
・一般化されている箇所の採寸が不可能、または無意味な場合があり得る。
・開閉箇所等、衣類の基本構造に関する部分の設計に関し、「○○向け」でなくそれぞれの個人への対応として考える必要がある場合があり得る。
 これらの問題は、身体障害者向けオーダーメイド衣類の製作は、その設計過程において標準的デザインの部分的調整操作に留められずに、場合によってはほぼ 一からデザインする必要もあり得ることを示すものである。
 こういった事情から、製作過程では様々な試行錯誤が必要となってくるわけであるが、採寸や試着の回数が多ければ依頼者の負担が増することになり、依頼者 の負担増は制作者の負担感にもなり得る。またこういった実践を経済的問題として捉えた場合、試行錯誤が多ければ多いほど、製作コストは高く付くということ となる。
 したがって、近年盛んに行われているコンピュータ上の3Dモデルを活用した方法は、このような場合の負担軽減の手法として非常に有効なものといえるだろ う(※)。姿勢を変えたときの衣類の応答などのシミュレーションも可能なはずである。がしかし、これにはコンピュータ等の機材と専用のアプリケーションソ フトが必要なことと、採寸作業の軽減にはあまり結びつかないことが問題点としてあげられる他、作業の全てが実体が無いままに行われるため、いわゆる「着心 地」を想像するのは方法論的に困難であることが最大の難点となると思われる。
 このような多くの現実的な問題を考慮して、障害者向け衣類製作の現場においては、依頼者の事情を再現できる実体としての人体模型が有効であるものと考え た。これにより、一般化された部位の採寸にとらわれず「計れるところだけ計る」といった方法によった採寸データをデザインに反映させようとすることが可能 になると思われ、「しつけ」の作業や、前述したような試行錯誤や試着においても、依頼者・製作者の労力を大幅に軽減できるものと考えられる。
 ただし、個々人の身体的事情を再現しようとする模型の製作がコスト的に高く付いてしまっては現実的とはいえず、また、その模型が必要とされる期間も製作 しようとする衣類が完成するまでのみでことたりるわけである。したがって、形態的にユニバーサルな変更を受け入れるようにデザインされた人体模型、ないし マネキンが求められるということになる。

3 人体模型、もしくはマネキンの形状の検討

3−1 既存の人体模型およびマネキンについて
 既存の人体模型およびマネキンについて、その形状から概観する。
 人体模型については、目的に応じた各種製品が存在する。即ち、人体構造の学習用であったり、介護や救命実習用、または、各種製品検査用のダミー人体等で ある。これらの殆どは、その目的に応じて特化した形状と構造を持つ。
 類似したものとして、美術学習の場や人形製作等に使われる、いわゆる関節人形がある。これは、関節部分が可動である他は、ソリッドな形状となっている。
 衣料品店等の店頭で見られるマネキンについては、材質は様々であってもその多くがソリッドな形状を持つものである。ものによっては数カ所の可動部があ り、手足の向きなどに変更を加えることができる。これらは使用目的が衣類デザインの効果的な演出であるため、その体型は実人体からかけはなれたものが少な くない。近年では、購買者の実情に即した形で、高齢者や子供、やせ形・肥満型など各種体型のマネキンも見られるようになっているが、これらの多くは、原型 から型抜きして量産されているものであり、その体型バリエーションイコール原型のバリエーションである。材質そのものがやわらかであったり表面を布張りす ることにより表面にやわらかさを出しているものもあるが、体型の決定は作成時の一度だけという意味では、上記ソリッドなマネキンとなんら変わることはな い。縫製用トルソを含む各種の部分マネキンも形状決定の事情としては同様である。
 マネキンの中には、各関節が自由にまげられるものもある。これは、比較的柔らかい素材を使用して整形されたマネキンの内部に形状可変の骨格を入れている ものである。姿勢は任意に固定することが出来るが、基本的体型としては一定である(※)。
 その他、コンピュータ上でのみの存在が許されたバーチャルなマネキンがあり、これについては、体型や姿勢を自由に変更できるだけでなく、各種動作の再現 やなんらかのアクションに対する応答のシミュレーションもできるようになっている。が、前章で述べてきた理由から、今回の目的は実体としての模型・マネキ ンの検討であるため、これについては議論対象から除外する。
 このように、これらの人体模型およびマネキンに共通する点として、一点物でないかぎり、その外形は固定したものとして製作されている。つまり、体型を決 定するのは制作時のみ(量産品であれば、原型作成時)ということになる。体型を変えるには、個別に削りだしや肉付けの必要がある。

3−2 求められるマネキンの条件とそれを満たすマネキン製作手法の検討
 2で述べた事情から、製作する人体模型ないしマネキンに必要とされる条件は、以下の通りとした。
・姿勢が可変である。即ち、立ち姿勢の他、車椅子に座った状態にする等、複数の姿勢をとるこことができる。
・体型が可変である。
・関節の可動範囲を限定できる。
 また、製作目的からいって、安価であることと、再利用=使い回しが出来ることも、必要な条件となる。
 これらの条件を満たすには、3−1で整理した既存の人体模型やマネキン製作手法からいうと、主に体型の面からそれぞれ一点物として製作する以外に方法は ないが、手間や製作コストからいって現実的でない。
 こういった事情から、今回の試作は通常のマネキン製作の手法を逆転させ、基本素材そのもので整形するのでなく、外側から不定形の内容物をくるむことによ り体型を整える方法が有効だろうと考えた。縫いぐるみと同様の手法ではあるが、外側の素材に伸縮性が低くある程度剛性をもったものを使うことにより、昆虫 でいえば外骨格(殻)のイメージに近いものとなる。これに、必要に応じて可動式マネキンの手法を組み合わせて条件を満たそうとすればよい。
 姿勢については、依頼者が車椅子利用者の場合、マネキンの姿勢を座位に固定する方法も考えられるが、車椅子利用者とて常に座位でいるわけではなく、着用 者の「動作」を考慮したデザインが必要であり、同一マネキンで座位と立位の両方がとれることが望ましいだろう。
 また、この方法では精巧に人体を模すことは不可能であるが、可変の体型を必須事項とする限りにおいて、設計段階での標準体型等の精密な転写はもとより不 要である。完成品の形状が、使用目的に応じた「ゆるせる範囲」であるかどうかが最も大切なものとなる。

4 試作品の製作

4−1 試作品製作による主要な確認事項
 試作品は男女兼用、個々人の体型への対応、立位と座位などいくつかの姿勢への柔軟な対応を可能とする形状を目指し、今回は以下の点の確認を主要な目的と して製作することとした。
・縫いぐるみの手法で、目的とする人体の形状を実用的な範囲に整えることができるか。
・車椅子にのった姿勢とそこから立ち上がった姿勢の両方を一体のマネキンでとることができるか。
・個々人の体の特徴を反映させた体型を容易に実現することができるか。
・簡単に使い回すことが出来るか。
・低コスト製作の可能性の吟味。

4−2 方法

(省略)


4−3 製作手順

(省略)

5 結果

(省略)

6 考察および今後の展望

6−1 試作により判明したことの概略

(省略)

6−2 試作品の不都合点および主な改善点

 試作においては、肩幅、腰幅を可変とし胸部や臀部も調整可能としたことで男女兼用マネキンとしてある程度対応させられる構造としたが、実際には男女は別 品として製作するのが現実的だと思われる。また、身長に関してもある程度の変更は可能であるものの、S、M、L程度の区分に分けて作成するのが現実的と思 われる。
 可動部については、その構造自体についてまだ多くの改善が求められるところであるが、その検討の前にいくつか考慮すべきことがある。つまりそれは使用目 的であり、大きくは次の3つに分けて考えることができる。
A.ある程度の頻度で体勢を変換する必要があっても、その都度可動部を調整すれば目的に添うことができる作業の場合。
B.実人体に即した動きの範囲内で、常に関節部を可動状態とする必要がある場合。
C.構造上受動的に決定される体勢のままで使用目的に沿うことができ、体勢変換の必要がない場合。
 Cは、立位なら立位、座位なら座位として予め決めた形で製作してしまえば済むということであり、Bはつまり、手足等を「ぶらぶらに」しておくということ である。Bの目的に完全対応させた設計ができればA及びCへの対応はたやすいが、これの実現は、おそらく構造を複雑とし製造コストを上昇させると共に、開 発の着地点を無限遠へと追いやってしまう可能性がある。こういった事情は、ユニバーサルデザインの「ユニバーサルさ」の範囲決定ともいえるものであるが、 現実的には、開発の方向性にBを目指してA〜C全対応として考えるか、A、B、Cいずれかに限定するかのどちらかに絞り込む必要があろう。そのためには、 現場のニーズ調査を反映させる形にするか、使用目的を提案する形でA〜Cいずれかに固定したものを提供するかとなる。
 強度等に関して、今後実寸で試作を行った場合、おそらく骨盤と脊椎骨相当の部分等、最低限の骨格が必要になると思われる。使用目的によっては可動部の み、ないし全体の骨格の挿入も検討する必要があろう。また、全体の強度や体勢・体型維持の堅牢さ、体勢変換のための必要操作方法、体勢変換した後の体勢の 維持方法も要検討事項である。
 その他、今後必要となる作業としては、製作コストの把握とコスト削減努力の方向性の検討、上述した事情を加味した可動部構造の検討、体型の可変範囲の測 定と体型変換作業の簡易化の検討、強度の検討等があげられる。また、充填物の材質によって自重が大きく変わることを踏まえて布地の種類を検討すると共に、 必要に応じた骨格の追加や関節部補強等についての検討が必要になろう。

6−3 開発の方向性について

 今回の試作の目的は、冒頭に記したように身体障害者用オーダーメイド衣類設計・製作時の負担を軽減するためというものであるが、潜在的ニーズを別とした とき、既製品より高く付くオーダーメイド衣類がどの程度求められるのかという問題がある。これは主に依頼者の経済的問題に関わる事項であろう。このような オーダーをいったい誰が受注するかという問題もある。
 これに対しては、やはり製作実践例の蓄積が重要であり有効であろう。身体の障害の事情はそれぞれ個別性のあるものであっても、症例としてある程度タイプ 分けできるものであり、その知見に具体的個別的ニーズを反映した実践例の蓄積を加味していくことで、衣類デザインについてもいくつかのタイプ分けされた基 本モデルと個々人の実情に応じて調整を加えたカスタムモデルという形で広範囲に対応ができるようになるはずである。これは、衣類製作のコストを低下させ、 同時に、制作者の裾野を広げることに繋がるものであり、製作例数が増えることにより、使用者からのフィードバックも増え、ないがしろにされがちだった ファッション性の高まりも期待できる。したがって、その過程のツールであるユニバーサルデザインマネキンは、低コストで導入でき手軽に有効利用できるよう なものを目指すのが必須条件となる。

6−4 応用範囲と今後の展望
 ユニバーサルデザインマネキンの完成品が出来た場合には、その特徴からいって広く応用できるものであると思われる。ただしこれは完成品の形状に左右され るものであるため、前述した使用目的区分のA〜Cにわけて、その考えられる用途を記す。
 Aについては、本来の目的とした身体障害者や各種特殊体型者用オーダーメイド衣類のデザイン・および製作の補助ツールとして、および、衣類リフォームの 現場での使用があげられる。BについてもAと同様の目的での使用が可能である他、消防・レスキューや障害者・高齢者介護技術の実習や訓練用、格闘技訓練、 戦闘訓練での使用が考えられる。Cについては、骨格を補強し各種ディスプレイや実在ファッションモデルを使用しないファッションショーなどが考えられる。 また、A〜C全てについて、各種製品開発や検査における人体模型の代替など、人体模型かそれに類似するものを必要とする各種現場での使用が考えられる。特 に、低コストで導入でき廃棄物をごく少量とすることが可能であるため、非可逆的破壊検査には有効となろう。この場合については体型可変である必要はないた め、さらに簡易的かつ低コストで製作できるものを考えてもいいだろう。
 今後の課題としては、実使用に即して可能な限り構造を簡略化し
その過程においておそらく一番有効なのは、各種実使用の場からのフィードバックを得ることであろう。

参考文献









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